ただ、そばにいて。

4)凍える夜

 家に戻ると、長瀬悠斗はさっきと同じように膝を抱えて小さく縮こまっていた。

 光が漏れないように気を付けながら、スマートフォンに触れる。
 時刻は二十二時を過ぎたところだった。

 いったいいつからこうしていたのだろう。

 今日の最高気温は摂氏二度程度だと、今朝のニュースで言っていた。
 そのうえここは、高台になっているため風が強い。
 肌を刺すような空気の冷たさ。いまはおそらく氷点下になっているだろう。

 悠斗はムートンの手袋をはめ、ダウンコートのフードを目深にかぶっていた。
 足もとに置かれているのは大きなボストンバッグがひとつ。
 細くて柔らかそうな髪の毛に、溶けきらない雪が粉砂糖のようにかかっている。

 真冬のヨーロッパが旅行の目的地だったこともあり、一応は寒さに耐えられる格好をしているが、ずっとこうしていたのなら体は相当冷えているだろう。

 さっきはよく確認もせずに逃げ出してしまったが、生きているのだろうかと不安になる。

 彼をこのまま家に泊めていいものかどうか柚月の話だけでは判断できない。けれどこのまま放っておくわけにもいかない。
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