ただ、そばにいて。
 この子を助けたら、胸の奥にわだかまっている虚しさから逃れることができるだろうか。

 自分は鷹森との恋人関係を解消しても、傷ついたりしない人間だ。
 イルミネーションの灯った並木道を歩く恋人たちを冷ややかな目で見つめ、軽蔑した。
 そして電車のなかで、他人に紛れていることにたまらなく安堵した。

 そんな自分のことを、ひどく薄情で冷めていると嫌悪した。

〝ひとり〟と〝孤独〟は違う。私は誰かに気兼ねして生きるよりも、自由気ままでいたい。
 そんなふうに、気持ちを正当化する言い訳をしながら。

 けれど自然に、行き場のない悠斗にやさしい言葉をかけてあげることができた。
 それはちょっとした驚きだった。

 悠斗は、困惑したように視線をさまよわせたあと、目をそらした。

「……僕、やっぱり帰ります」
「いいけど……行くあてはあるの?」

 瑞希は手をのばし、悠斗の髪についていた雪をはらってあげた。

「帰るにしても、うちで温まってからにしなさい」

 アパートが火事になったというのが事実なら、このまま寒空のなか追い出すわけにはいかない。

 それに、誰かと話をしたいというのは本当だった。
 鷹森と恋人関係を解消したことでできた心の隙間を、誰かに埋めてもらいたかった。
 傷ついてはいないけれど、淋しい。
 今夜だけは、誰かにただ、そばにいてほしい。

 悠斗はなにかを思案するようにマフラーに顎をうずめる。
 瑞希は懇願するように悠斗の顔をのぞき込んだ。

「今日、ちょっと落ち込むことがあって、私も誰かと話をしたい気分だったの。でも柚月はいないし。少しだけ話し相手になって」

 力なく笑ってみせると、ようやく悠斗はうなずいた。
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