ただ、そばにいて。
悠斗は顔をあげ、目を輝かせた。
「店長かもしれません」
悠斗はスマートフォンを操作しながらソファの隣に立つ。
そして相手の声を聞いたとたん、安堵したように表情を緩めた。
「もしもし?」
瑞希は電話の邪魔をしないように、席を立ってキッチンに向かった。
ぬるみかけたコーヒーを飲み干し、カップに新しく淹れなおす。
「わざわざ電話くれたんだ。そっちはどう? うん……そっか、よかった」
悠斗は年相応の笑顔になって、相手の話に相槌を打っていた。
瑞希はキッチンに立ってコーヒーを飲みながら、うつむいたときにさらされる、悠斗のきれいな首のラインを眺めた。
仕事先の人? それとも友人か。
とりあえず、誰かと連絡さえ取れれば、今夜の宿泊場所の件は解決するかもしれない。
それにしても、気心の知れた相手だと、こんなふうに無防備な笑顔を見せるのか。
なあんだ。
瑞希のところ以外にも、ちゃんと頼れる場所があるんじゃないか。
ホッとする反面、なぜか虚しさを感じた。
なあんだ。
「……うん、わかった。じゃあ、道中気をつけて」
最後に小さく言って、悠斗は通話を切った。
そして、テーブルに戻って椅子に座った。
「コーヒー淹れるね」
カウンター越しに声をかけると、「すみません。ありがとうございます」と悠斗は残りのそばを勢いよくすすりはじめた。
「いまの電話、店長からだったの?」
「いえ。柚月でした」
「柚月?」
姉である瑞希からの電話は無視しているのに、悠斗のことはちゃんと気にかけるわけか。
「柚月、なんだって?」
「安心してうちにいていいよって。瑞希さんは頼りになるし、力になってくれるって」
「そっか」
そこまで言われてしまったら、悠斗を助けないわけにはいかない。
「今日はうちにいてもいいよ。二階にも空き部屋があるけど、物置になっていて使えないの。だからちょっと寒いかもしれないけど、今日はソファで寝てね」
瑞希は用意していた言葉を告げた。
「でも……」
悠斗は言いにくそうにぽそりと付け足した。
「……恋人とか、いるんですよね」
「恋人?」
「はい。柚月の友達だからといって、男とふたりきりで過ごすなんて、よく考えたらおかしいですよね。それとも、こういうことってよくあるんですか?」
その言葉は、瑞希のやわらかかった心を無遠慮に逆撫でした。
「どういう意味よ」
声に含まれた不機嫌さを感じ取ったのか、悠斗は「すみません。慣れてるみたいだから、柚月が友達を呼ぶことがときどきあるのかな、と思って」と慌てて言い訳をする。
瑞希の心のなかに、失意に似た気持ちが湧きおこった。
〝慣れている〟という言葉が、思った以上に瑞希の心を深くえぐった。
男とひと晩過ごすことなどなんでもない、そういうことに慣れている女だと、悠斗は思っているのか。
「店長かもしれません」
悠斗はスマートフォンを操作しながらソファの隣に立つ。
そして相手の声を聞いたとたん、安堵したように表情を緩めた。
「もしもし?」
瑞希は電話の邪魔をしないように、席を立ってキッチンに向かった。
ぬるみかけたコーヒーを飲み干し、カップに新しく淹れなおす。
「わざわざ電話くれたんだ。そっちはどう? うん……そっか、よかった」
悠斗は年相応の笑顔になって、相手の話に相槌を打っていた。
瑞希はキッチンに立ってコーヒーを飲みながら、うつむいたときにさらされる、悠斗のきれいな首のラインを眺めた。
仕事先の人? それとも友人か。
とりあえず、誰かと連絡さえ取れれば、今夜の宿泊場所の件は解決するかもしれない。
それにしても、気心の知れた相手だと、こんなふうに無防備な笑顔を見せるのか。
なあんだ。
瑞希のところ以外にも、ちゃんと頼れる場所があるんじゃないか。
ホッとする反面、なぜか虚しさを感じた。
なあんだ。
「……うん、わかった。じゃあ、道中気をつけて」
最後に小さく言って、悠斗は通話を切った。
そして、テーブルに戻って椅子に座った。
「コーヒー淹れるね」
カウンター越しに声をかけると、「すみません。ありがとうございます」と悠斗は残りのそばを勢いよくすすりはじめた。
「いまの電話、店長からだったの?」
「いえ。柚月でした」
「柚月?」
姉である瑞希からの電話は無視しているのに、悠斗のことはちゃんと気にかけるわけか。
「柚月、なんだって?」
「安心してうちにいていいよって。瑞希さんは頼りになるし、力になってくれるって」
「そっか」
そこまで言われてしまったら、悠斗を助けないわけにはいかない。
「今日はうちにいてもいいよ。二階にも空き部屋があるけど、物置になっていて使えないの。だからちょっと寒いかもしれないけど、今日はソファで寝てね」
瑞希は用意していた言葉を告げた。
「でも……」
悠斗は言いにくそうにぽそりと付け足した。
「……恋人とか、いるんですよね」
「恋人?」
「はい。柚月の友達だからといって、男とふたりきりで過ごすなんて、よく考えたらおかしいですよね。それとも、こういうことってよくあるんですか?」
その言葉は、瑞希のやわらかかった心を無遠慮に逆撫でした。
「どういう意味よ」
声に含まれた不機嫌さを感じ取ったのか、悠斗は「すみません。慣れてるみたいだから、柚月が友達を呼ぶことがときどきあるのかな、と思って」と慌てて言い訳をする。
瑞希の心のなかに、失意に似た気持ちが湧きおこった。
〝慣れている〟という言葉が、思った以上に瑞希の心を深くえぐった。
男とひと晩過ごすことなどなんでもない、そういうことに慣れている女だと、悠斗は思っているのか。