ただ、そばにいて。
〝仕事に行ってきます。鍵はポストに入れておいてください。お金は火事のお見舞金です。必要なものを買うのに使ってください〟

 翌朝、眠ったままの悠斗をそのままにして、瑞希は家を出た。
 妹の友人に対する義理は果たした。
 また、ひとり気ままな生活に戻るだけ。

 そう思っていたけれど、行くあてのない悠斗は、結局瑞希の家に滞在することになった。

「添い寝役、引き受けます」

 夜になって家に帰ると、悠斗はまるで身請けされる遊女のように、あらたまって瑞希に頭を下げた。



 明かりがすべて消された部屋で、レースのカーテン越しに月を眺める。
 隣にいるのは、妹の友人である六つ年下の男の子だ。

 いつもなら冷たいベッドで必死につま先をこすり合わせているところだが、悠斗のぬくもりで、足もとは心地よく温まっている。

 こんなこと、柚月が知ったら激怒しそうだ。
 瑞希にいろんなことを押しつけてくる妹は、逆にこっちがテリトリーに入り込もうとすると過剰に反応する。

 だから柚月が旅行でいないあいだだけの、期間限定の秘密の関係。
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