ただ、そばにいて。
悠斗はふたたび布団のなかに潜りこむ。
ここはなんてあたたかいのだろう。
布団のなかで手を伸ばすと、すべすべとしたやわらかなものに触れた。
発酵前のパン生地のように弾力があり、いいにおいがする。
悠斗は布団のなかのやわらかなものを抱きしめた。
ふわふわして心地よい。
しばらく腕のなかのぬくもりを堪能していたが、はっとして目を開けた。
同じベッドで誰かが寝ている。
おそるおそる相手の顔をのぞきこんだ。
きれいな女の人だった。
小さな顔、伏せられた長い睫毛。ふっくらした唇はわずかに開いている。
緊張しながら様子をうかがっていると、規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
どうやら目は覚まさなかったらしい。
頬にかかった髪を、そっと指ではらってやる。
――子供みたいな寝顔だな。
隣で眠っている女性は、高校の同級生だった柏井柚月の姉だ。
名を柏井瑞希という。
高校のときに何度か話したことがあったが、穏やかで優しくて、とても大人の女性だった。
だが、いまの無防備な姿は、六つも年上とは思えないくらいにあどけなく見える。
悠斗は仰向けになり、自分の部屋とは模様の違う天井を見上げた。
この家に来たのは一昨日の夜のことだが、もうずっと前のことのように思える。
高校時代の同級生と計画していたヨーロッパ旅行。
出かけるまえは、休みの分の穴埋めのために朝早くから夜遅くまで働いた。
直前まで準備ができず、出発の日はほとんど徹夜だった。
地下鉄に乗って柚月と一緒に仙台駅に向かい、新幹線で東京まで行ってほかの仲間たちと合流する予定だった。
だが途中で自分だけ帰らざるを得なくなった。
店とアパートが火事になったと連絡を受けたのだ。
悠斗は旅行をキャンセルして仙台に戻った。けれどアパートは立ち入り禁止で途方に暮れた。
柚月のはからいで瑞希の世話になることになったが、この家に泊めてもらうための条件がふたつあった。
ひとつは彼女と一緒に寝ること。
特別な意味はなく、ただ隣で眠るだけの、添い寝という役割らしい。
なにか別の思惑があるのかと思ったが、ゆうべはただ単に、抱き枕の役目を果たしただけだった。
彼女が眠りにつくまでおしゃべりをし、そのあとは同じベッドで自分も休んだ。
その前の日も、リビングのソファでDVDを一緒に見て、そのまま寝てしまった。
本当に、ただの友達みたいに。
落ち込むことがあったから、話し相手が欲しい。
瑞希はおとといの夜、そう言って悠斗を家のなかに招いた。
悠斗に対する気遣いだと最初は思ったが、恋人がいるのかと聞いたときの瑞希の表情を見て、そこは触れてはならない部分なのだと悟った。
ここはなんてあたたかいのだろう。
布団のなかで手を伸ばすと、すべすべとしたやわらかなものに触れた。
発酵前のパン生地のように弾力があり、いいにおいがする。
悠斗は布団のなかのやわらかなものを抱きしめた。
ふわふわして心地よい。
しばらく腕のなかのぬくもりを堪能していたが、はっとして目を開けた。
同じベッドで誰かが寝ている。
おそるおそる相手の顔をのぞきこんだ。
きれいな女の人だった。
小さな顔、伏せられた長い睫毛。ふっくらした唇はわずかに開いている。
緊張しながら様子をうかがっていると、規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
どうやら目は覚まさなかったらしい。
頬にかかった髪を、そっと指ではらってやる。
――子供みたいな寝顔だな。
隣で眠っている女性は、高校の同級生だった柏井柚月の姉だ。
名を柏井瑞希という。
高校のときに何度か話したことがあったが、穏やかで優しくて、とても大人の女性だった。
だが、いまの無防備な姿は、六つも年上とは思えないくらいにあどけなく見える。
悠斗は仰向けになり、自分の部屋とは模様の違う天井を見上げた。
この家に来たのは一昨日の夜のことだが、もうずっと前のことのように思える。
高校時代の同級生と計画していたヨーロッパ旅行。
出かけるまえは、休みの分の穴埋めのために朝早くから夜遅くまで働いた。
直前まで準備ができず、出発の日はほとんど徹夜だった。
地下鉄に乗って柚月と一緒に仙台駅に向かい、新幹線で東京まで行ってほかの仲間たちと合流する予定だった。
だが途中で自分だけ帰らざるを得なくなった。
店とアパートが火事になったと連絡を受けたのだ。
悠斗は旅行をキャンセルして仙台に戻った。けれどアパートは立ち入り禁止で途方に暮れた。
柚月のはからいで瑞希の世話になることになったが、この家に泊めてもらうための条件がふたつあった。
ひとつは彼女と一緒に寝ること。
特別な意味はなく、ただ隣で眠るだけの、添い寝という役割らしい。
なにか別の思惑があるのかと思ったが、ゆうべはただ単に、抱き枕の役目を果たしただけだった。
彼女が眠りにつくまでおしゃべりをし、そのあとは同じベッドで自分も休んだ。
その前の日も、リビングのソファでDVDを一緒に見て、そのまま寝てしまった。
本当に、ただの友達みたいに。
落ち込むことがあったから、話し相手が欲しい。
瑞希はおとといの夜、そう言って悠斗を家のなかに招いた。
悠斗に対する気遣いだと最初は思ったが、恋人がいるのかと聞いたときの瑞希の表情を見て、そこは触れてはならない部分なのだと悟った。