ただ、そばにいて。
 瑞希がコーヒーを淹れているあいだにパンケーキの仕上げをし、カトラリーと一緒にテーブルに並べる。

「朝食を作ったんです。パンケーキなんですけど……」

 部屋着のときはかわいらしい印象だったが、パンツスーツに身を包み、完璧なメイクをしたいまの瑞希は、ドレスコードのある高級レストランに出入りするような洗練された女性だった。
 ベッドのなかではリラックスして話せたのに、明るい場所で見る瑞希があまりにも大人で、話し言葉も遠慮がちになってしまう。

「ありがとう。おいしそうね」

 ふわりと焼きあげられたスフレ状の厚いパンケーキは、悠斗の店でも一番人気のメニューだ。
 隣にアイスクリームを添え、イチゴとブルーベリーをトッピングした。
 何度も店で作った自信作である。

 瑞希がフォークとナイフでパンケーキを切り、ひとかけら口に運ぶ。
 悠斗は審判を待つ被告人のような気分になった。

 咀嚼が止まったので、なにかあったのだろうかと悠斗は身構えた。
 けれど次の瞬間、瑞希の表情がふわりと緩んだ。

「美味しい。こんなにふわふわのパンケーキ、はじめて食べた」

 その言葉を聞いて、悠斗は笑顔を隠せなくなった。

「ありがとうございます。うちの店の人気メニューなんです!」

 店長の味にはまだまだ及ばないが、少しでも近づけるようにと必死で練習した。

 美味しそうにパンケーキをほおばる瑞希の姿を見て、悠斗は安堵した。
 苦手なものを無理して食べている客は、表情やしぐさですぐにわかる。
 瑞希は本心から「美味しい」と思ってくれているようだった。
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