ただ、そばにいて。
瑞希の向かい側に座り、悠斗もフォークを持ってパンケーキを切り分ける。
すると瑞希が席を立ち、キッチンからなにかを持ってきた。
「メープルシロップ?」
「カナダにいる母親が送ってきたの」
瑞希はシロップの瓶を悠斗に手渡した。
メーカーの名前は知らないが、小さなガラス瓶に入っている透明感のある蜜は、悠斗の目から見ても上等のものだった。
琥珀色の液体がとろりと膜をつくる。
パンケーキの焦げ目と混ざりあい、表面にしっとりとした質感を描きだした。
「あ、うまい」
悠斗はテーブルに置かれたメープルシロップの瓶を手前に引き寄せ、ラベルを見ながら手帳にメモしはじめた。
「なにしてるの?」
「えっと……日記みたいなもので、新しい味に出会ったときに、第一印象を書きとめることにしてるんです」
店の名前、頼んだメニュー、食感、盛りつけ方、そこから感じたインスピレーション。
新米の料理人である悠斗にとっては、すべてが勉強だった。
英語の表示を苦戦しながら写しとる悠斗を見て瑞希がくすくす笑う。
咲きこぼれる花のような笑みに、悠斗は目を奪われた。
モデルをしている柚月もきれいな子ではあったが、瑞希はまた違った美しさを持っている。
――なんだろう、この気持ちは。
心の奥がくすぐったいような、あったかいような。
完璧な大人の女性の、ふと見せる少女のような表情から目が離せない。
なにか特別なものを、自分だけが見ているような気がした。
家を出るとき、瑞希は「今日も家にいてくれる?」と悠斗の顔を見上げながら尋ねた。
「夕食、期待してください」
張り切って答えると、瑞希は「ありがとう」と小さな声でつぶやいた。
瑞希は、悠斗がこの家で世話になるための条件をふたつ出した。
そしてそのことを、〝ギブアンドテイク〟だと言った。
それは悠斗に負い目を感じさせないためのやさしい取引だと思っていたが、どうやら少し違うみたいだ。
瑞希は悠斗を必要としてくれている。
それに気が付いたとき、悠斗の心は踊った。
すると瑞希が席を立ち、キッチンからなにかを持ってきた。
「メープルシロップ?」
「カナダにいる母親が送ってきたの」
瑞希はシロップの瓶を悠斗に手渡した。
メーカーの名前は知らないが、小さなガラス瓶に入っている透明感のある蜜は、悠斗の目から見ても上等のものだった。
琥珀色の液体がとろりと膜をつくる。
パンケーキの焦げ目と混ざりあい、表面にしっとりとした質感を描きだした。
「あ、うまい」
悠斗はテーブルに置かれたメープルシロップの瓶を手前に引き寄せ、ラベルを見ながら手帳にメモしはじめた。
「なにしてるの?」
「えっと……日記みたいなもので、新しい味に出会ったときに、第一印象を書きとめることにしてるんです」
店の名前、頼んだメニュー、食感、盛りつけ方、そこから感じたインスピレーション。
新米の料理人である悠斗にとっては、すべてが勉強だった。
英語の表示を苦戦しながら写しとる悠斗を見て瑞希がくすくす笑う。
咲きこぼれる花のような笑みに、悠斗は目を奪われた。
モデルをしている柚月もきれいな子ではあったが、瑞希はまた違った美しさを持っている。
――なんだろう、この気持ちは。
心の奥がくすぐったいような、あったかいような。
完璧な大人の女性の、ふと見せる少女のような表情から目が離せない。
なにか特別なものを、自分だけが見ているような気がした。
家を出るとき、瑞希は「今日も家にいてくれる?」と悠斗の顔を見上げながら尋ねた。
「夕食、期待してください」
張り切って答えると、瑞希は「ありがとう」と小さな声でつぶやいた。
瑞希は、悠斗がこの家で世話になるための条件をふたつ出した。
そしてそのことを、〝ギブアンドテイク〟だと言った。
それは悠斗に負い目を感じさせないためのやさしい取引だと思っていたが、どうやら少し違うみたいだ。
瑞希は悠斗を必要としてくれている。
それに気が付いたとき、悠斗の心は踊った。