ただ、そばにいて。

2)なくなった居場所

 瑞希が出かけたあと、悠斗は火事のあったアパートを見に行くことにした。
 店長の篠崎《しのざき》から立ち入り禁止が解除されたと連絡が入ったのだ。

 冷蔵庫とパントリーの食材をもう一度確かめ、必要なものを書きだす。
 瑞希の手足はとても冷たかった。
 彼女のために、今夜はなにか体のあたたまるものを作ってあげたい。

 悠斗はナップサックを背負い、ブーツを履いて外に出た。
 おととい降った雪はまだ解けておらず、庭木の枝は綿帽子をかぶったようになっている。

 車がようやくすれ違えるほどの狭い道の両側には、古い住宅が並んでいた。柏井家は、坂を上った突き当りに位置している。

 轍に沿って、坂道を歩く。
 仙台は東北のなかではあまり雪が降らない地域で、よほどの大雪でないと除雪車は出ない。
 出動したとしても、大きな通りだけだ。

 おとといの夜、アパートから瑞希の家まで重い荷物を背負いながらこの道を歩いた。
 でも、そのときのことはあまり記憶にない。

 曲がり角の公園に、小さな雪だるまがあった。
 近所の子どもが作ったのだろう。
 公園は滑り台とベンチがあるだけの、簡素なものだ。

 そういえば、柚月の家に集まるとき、この公園を目印にしたっけ。

 どんな景色を見て、何を考えながら歩いたのか、おとといの夜のことはあまりよく覚えていない。
 けれど高校のときの記憶は、いまでも鮮明によみがえる。
< 39 / 51 >

この作品をシェア

pagetop