ただ、そばにいて。
 アパートには、歩いて四十分ほどでたどり着いた。
 居室は縦に三つ並んでおり、いちばん手前が悠斗の部屋だ。

 火事のあった日も来てはいたのだが、夜と昼とでは様子がだいぶ違っている。

 一階部分が悠斗の働くビストロだ。道路に面した大きなガラス窓はブルーシートで覆われている。
 焼け焦げたフラワーポット。
 煤のついた壁。

 店は縦に長く、入り口からすぐのところにレジカウンターがあった。
 大きな観葉植物で仕切られたホールのなかに四人掛けのテーブル席が三つとカウンター席が五つ。

 カウンター席の奥に厨房があり、そこが悠斗の居場所だった。
 朝早く店に出て仕込みをはじめ、十七時からのディナータイムが始まるまで、後片付けや賄い作りをする。

 スタッフは、調理師が篠崎と悠斗のふたり、バイトの子が昼はひとり、夜はふたり店に出ていた。
 電話がかかってきたのは午後三時くらいだったと記憶している。
 ランチタイムが終わって、夜の仕込みが始まる時間帯だ。

 きっと怖い思いをしただろう。
 大変なときに不在にしてしまい、申し訳なく思う。
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