ただ、そばにいて。

4)あたたかなベッド

 暗くなるまで店の片づけをしたあと、高台にある一軒家に戻った。
 食事の支度をしながら瑞希の帰りを待つ。

 今夜のメニューは、かぼちゃとモッツァレラチーズのグラタン、ミネストローネ、野菜サラダとパンだ。
 瑞希が気に入ってくれるといいけれど。

 スープの鍋をかき混ぜながら、悠斗は考えた。
 ――どうして自分は、ほかに泊まる場所を探そうとしないのだろう。

 両親は東京に住んでいて、ずっとまえから離れて暮らしている。
 姉も結婚して新潟だ。
 高校時代に世話になっていた祖母はとっくに亡くなり、小料理屋は叔母夫婦が継いでいる。
 だが高校や専門学校のときの友人に何人か泊めてくれそうな人はいたし、篠崎に紹介してもらうことだってできた。

 なのに自分は、この家に留まることを決めた。
 友達の姉が暮らす家、しかも世話になる条件として夜は添い寝をするなんて、とても常識的なことだとは思えないのに。


 高校時代の悠斗らにとって、きれいで大人な瑞希は憧れの存在だった。魅力的な異性として、女子にとっては将来なりたい理想の女性像として。

 おとといの夜、久しぶりに再会した瑞希はとても寒そうだった。
 寂しい、というより、寒くて誰かのぬくもりを必要としているように見えた。
 だから、なんだか放っておけなくなった。

 瑞希は毎晩帰りが遅く、玄関の鍵が開くのはいつも十時を過ぎてからである。
 大通りにあるブランドショップで店長をしていると聞いたが、仕事が大変なのだろうか。
 けれどそれだけではないような気もする。

 瑞希はあまり自分のことを話さない。
 悠斗の話に楽しそうに相槌を打ちながら、昨日もおとといも、あっというまに眠りに落ちてしまった。
 ずっと年上なのに、子供みたいに無防備に。

「体温を感じていると安心する」

 そんなふうに瑞希は言った。
 もしかして、なにか不安を抱えているのだろうか。
 柚月と違って喜怒哀楽をあまり表現しない人だが、心のなかでは繊細に気持ちが動いているような気がした。

 柚月というフィルターを通して瑞希を見ていた悠斗は、本当の瑞希のことを悠斗はよく知らない。
 けれど自分の存在で瑞希の不安が和らぐのなら、そばにいてあげたいと思った。
< 45 / 51 >

この作品をシェア

pagetop