ただ、そばにいて。
 涼介は家庭菜園部のメンバーのひとりで、柚月らと一緒にヨーロッパ旅行をしている。
 悠斗のいちばんの親友で、今回旅行に行くことを決めたのも、東京の大学に進学した涼介に久しぶりに会いたいと思ったからだ。

 そういえばあれから旅行のメンバーに連絡をしていなかった。
 いちど電話をかけてみたけれど、タイミングが悪く、すでに彼らは空の上だった。
 その後はいろいろ慌ただしく、頭のなかから旅行のことなどすっかり抜け落ちていた。

 一緒に新幹線に乗ったのはつい数日前のことなのに、もう何カ月も経ってしまったような気がする。

「旅行、楽しんでる?」
「まぁな。明日は水口《みずぐち》に会いに行ってくる」

 水口というのは家庭菜園部の顧問をしていた教師で、二年前に渡仏した。
 今回の旅行の目的のひとつが、恩師を交えて同窓会をするということだった。

 柚月は着いた早々買い物をはじめ、すでに荷物はスーツケースに入りきらないほどになってしまったそうだ。
 フライトアテンダントが美人だったとか、ついついチップの存在を忘れてしまうとか、涼介はおもしろおかしく旅先での出来事を教えてくれる。
 悠斗はひとつひとつのエピソードにうなずきながら、絵葉書のようなヨーロッパの街並みを思い浮かべた。

 背後から聞こえてくる耳慣れない言葉や、わずかにずれる会話のタイミングで、いま彼らがいるのは遠い異国の地なのだなと、あらためて不思議な気持ちになった。
 地球の反対側にいるのに、こうして同じ時間に起きて話をしている。
< 49 / 51 >

この作品をシェア

pagetop