ただ、そばにいて。
「ところで、アパートどうだったよ」

 みんな心配してたんだぞ、と涼介が責めるように言った。

「部屋までは延焼しなかったけど、消火のときにだいぶ水が入って、電化製品は全滅」
「そうか。で、いまどこにいるんだよ。実家、たしかだいぶ遠かったよな。例の店長のとこ?」
「……いや、友達のうち」

 涼介は柚月からなにも聞いていないのだろうか。
 嘘をついているわけではないが、悠斗はなんだかうしろめたい気分になった。

 できればこれ以上追求しないでほしい。
 そう思って黙っていると、火事のことには触れられたくないとでも思ったのか、涼介は「ならよかった」と話題を切り上げた。

「正月には実家に帰るから。一緒に初詣に行こうぜ」

 お土産のリクエストをいくつか悠斗に聞いたあと、涼介は「またな」と言って電話を切った。
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