最後の恋
彼女のいる一ノ瀬君は初めから手の届かない人だった。


だから傷つくはずがない。


ただ、一ノ瀬君の噂の彼女が紫乃だと知った時は流石に動揺はした。


でも見ているだけなら罪にはならない。


紫乃に対する罪の意識が全くないわけではなかったけど、告白もしない密かな想いなら友人を裏切っていることにはならない。


そう自分に言い聞かせ、見つめるだけの秘密の片思いに、私は今日も深く、深く落ちていく。


彼女に手を振り返しながらも、私の目はどうしたって隣の彼へと向けられ、彼の視界に一瞬でも入れた事に胸の疼きと小さな幸せを感じてた。


一ノ瀬君は大切な友人の彼氏だから、私にはそれだけで十分だった。


紫乃から奪いたいとか、私だけを見て欲しいなんて、そんな感情は……持っていない。
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