最後の恋
窓から見える遠くの山に紅葉がチラホラと見え始めた頃、


「これ、お願いします。」


図書室のカウンター内に座る私の目の前に1冊の本が差し出された。


その声だけで誰なのか分かってしまう。


入学式の時に聞いた一ノ瀬君の声。


一瞬だけチラリと見上げた私の視界に映ったのは、あの日と同じ黒髮の一ノ瀬君だった。


「1年1組の一ノ瀬 礼央です。」


そして私の体に緊張と言う名の電気が一気に走り抜ける。


「…はい。」


こんなに近距離では、顔さえまともに見ることも出来ない。


差し出された視線の先にある本だけに視線を向けたまま、一ノ瀬君からその本を受け取った。
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