最後の恋
クラスの違う一ノ瀬君と初めて話したのは、この図書室だった。


話したとは言っても、個人的でも友好的でもなく、ただの図書委員としての業務的な内容だったけど。


今日のようにお昼休みのカウンター当番をしていた私の前に、彼は借りる本を持ってやって来た。


当初はまだ慣れない図書委員の仕事の上に、密かに憧れていた一ノ瀬君が目の前に現れたことで、私の心臓はもう破裂寸前だった。


そして、最後の本を手渡す時に噛んでしまったのである。


今、思い出しても顔から火が吹き出そうなほど最大にして最悪の失敗だった。


「1週間の貸し出しになります。返却の際はこちらの返却カウンターまでよろしくお願いしましゅ…」

「………………」


本を受け取る彼の手がわずかに震えていた。


「……ぷっ…」


憧れの彼から一瞬聞こえた吹き出し音と笑いを噛み殺したような声に私は、カウンターの下に潜り込みたい衝動を必死に抑えるように目を固くぎゅっと閉じた。
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