最後の恋

裏にプライベート番号とメッセージアプリのIDが書かれているそれを受け取ると、私にも連絡先教えてくれる？と聞いてきた。


本当は名刺も持っていたけど、私はそれを彼女には渡さなかった。


今はプライベートだから持っていないと言い訳をして、口頭で彼女に伝えると彼女はその場でスマホに私の番号を登録していた。


「改めて連絡させてもらうね。それじゃあ、また。」


彼女はあの頃よりも更に綺麗になった笑顔を見せて私よりも先に出て行った。


私はまだ席に座ったまま、彼女の後ろ姿をただぼんやりと眺めていたから彼女が伝票を持っていったことにさえ気づかなかった。


10年前…


何も言わずに姿を消した紫乃が、突然目の前に現れた。


このタイミングでの彼女との再会にどんな意味が込められているのだろう。


なぜ、今再び出会ってしまったのだろう。


自分の守りたいものが壊れてしまうような…そんな不吉な予感がした。


彼との再会も、彼女との再会も私にとっては運命のいたずらだったのかもしれない。