最後の恋
カラカラ………


遠慮がちに開かれたドアの音。


だけどすぐに入ってくるような足音はしなくて、初めは誰かを探しに来た人だと思った。


だけど、その直後ヒソヒソと囁くような女の子の声と共に一人ではない二人分の静かな足音が中に入ってきたのが分かった。


隠れるつもりなんてなかったのに、なんとなくタイミングを失って出ていきづらくなってしまった。


どうしよう、そう思ったその時、今度ははっきりと聞こえたその声に心が一瞬で凍りつく。


彼女がここにいるという事は、相手はもちろん彼しかいない。


「ねえ、誰もいないし今のうちに…」


よく知っている声。


だけど、その話し方は普段聞き慣れているものとは全く異なっていた。


大好きな彼氏の前でだけ見せる、私の知らない紫乃の甘えた話し声。
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