最後の恋
「あ…」


立ったままの私の腰には彼の腕が絡まり、ぎゅっうと抱きつかれていた。


まるで小さな子供のように甘えん坊な彼。


「半日離れてただけなのに、早く杏奈にこうして触れたかった。」


彼の言葉で胸にギュウッと切なさの波が押し寄せる。


小さかった波が幾重にも重なり、最後には飲み込まれていくようで怖くなった。


「…どうした?なにかあった?」


何も言わない私を変に思ったのか、彼が顔をあげ下から見上げる。


「…ううん、何もないよ。ただ、少し疲れただけ。今日はいっぱい歩いたから…。」

「ほんとに?」

「…うん、ほんと。」

「そう…ならいいけど。何かあったらちゃんと俺に言うって約束、忘れるなよ。」

「うん、分かってるよ。」


私は、彼に精一杯の笑顔を向けてそう答えた。
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