最後の恋

その話を耳にしたのは、ランチの時間だった。


“ 一ノ瀬専務の婚約者 ”


社食でBランチ定食を食べていた私の背後から、誰かのそんな声が聞こえてきた。


「専務の婚約者って幼馴染らしいよ。しかも、学生時代から付き合ってるんだって。」

「ただの政略結婚な訳じゃなくて、長く付き合ってて愛されてるなんてほんと、憧れるんだけど。」

「羨ましい。」


私の正面に座る陽奈が何かを言っているのに、その声が段々と遠ざかっていくような…不思議な感覚だった。


なのに、どこかの部署の女の子たちが話している彼の噂話だけはしっかりと耳に入ってきた。


“ 学生時代から付き合っている幼馴染 ”


今、私が耳にしたのはあくまでも噂話で本当のことは彼にしか分からない。


分からないけど…一つだけはっきりした事は彼女たちの言う一ノ瀬君の婚約者が紫乃だということは分かった。


いままで、曖昧だった点と点が線で繋がった瞬間だった……。