最後の恋
「……もしもし」


勇気を出して電話に出ると、電話の向こうから聞こえてきた彼の声は酷く優しい彼の声だった。


『杏奈?』


ただ、名前を呼ばれただけなのに、鼻の奥がツーンと痛み始める。


「…うん」

『はぁ……やっと、声が聞けた。』


自分が思ってた以上に、彼を苦しめてしまったのかもしれない…そう思った。


それでも今はまだ彼に手を伸ばすことはできない。


彼から隠れたのは、さっきの2人の姿を見たせいじゃない。


私が最初に向き合うべきなのは、紫乃の方だと思ったから。


ここまで来たのも会うつもりで来たわけじゃなかった。


ただ、本当に勝手に足が向いてしまっただけ。
< 223 / 277 >

この作品をシェア

pagetop