最後の恋
「ううん、だけど紫乃が今日の約束のこと覚えてなかったらどうしようって少しだけ思ってた。」


ふふっと笑いながらそう言うと


「他の事は忘れても、それだけは忘れないよ。」


彼女も少しバツが悪そうな顔をしながらも笑みをこぼした。


「…ありがとう。会いたいって言ってくれて…」

「杏奈…。私こそ、会ってくれてありがとう。」


そして彼女の正面に座った私の目に飛び込んできたのは、吸い殻の入った灰皿だった。


タバコ吸うんだ…。


そんな事を考えていたら、私たちのテーブルの横にいつの間にかウェイターが注文を伺いに来ていた。


紫乃が私に尋ねる。


「杏奈は何飲む?」

「あ、そうだね。……じゃあ、ミルクティーで。」

「私も同じもの。」

「かしこまりました。」


ウェイターの男性は仰々しいほどに頭を下げ去っていった。
< 226 / 277 >

この作品をシェア

pagetop