最後の恋
その言葉に返事はできず、私は彼女にこう聞いていた。


「紫乃の結婚相手って…一ノ瀬くん…なんだよね?」


膝の上に乗せていた手は、爪の跡がつくほど強く握られたままだった。


普通なら、痛みを感じるほどの力が入っていたのに、その時の私には手の痛みなんて全く感じなかった。


数秒の沈黙の後…


「……え!?…違う、けど…えっと…ゴメン。何でそんな話になってるの?」


訳がわからないといった様子の紫乃の声が聞こえた。


その様子に目を開き、顔を上げると不思議そうな顔をして首を傾げている紫乃がいて、そんな彼女が口を開く。


「杏奈…もしかして、すっごく大きな勘違いしてない?」

「…………」

「えっと、まず…私の結婚相手の名前は真斗で礼央じゃないから!」

「真…斗…?」

「そう。東堂 真斗。彼も礼央と私の幼馴染なの。高校は彼だけ違うから知らなかったと思うけど。」
< 238 / 277 >

この作品をシェア

pagetop