最後の恋
紫乃の口から出たその名前は、昨日の電話口でも聞いた名前だった。


って事は、一ノ瀬くんの婚約者は紫乃ではなかったという事だ。


所詮、噂は噂で私はその当てにならない噂に振り回されていた…。


だけど相手が紫乃ではなかったというだけで、彼に婚約者がいないという事にはならない。


「でも、何で私が礼央の結婚相手だと思ったの?」

「…噂で、専務の婚約者が幼馴染だって聞いて…」

「そんな噂が?」


紫乃の顔付きが急に険しくなった。


そして…


「あの馬鹿は、そんな噂があった事も知らないのね?」


急に語気が強くなった紫乃のその言葉に、驚いた。


あの馬鹿っていうのは…まさか、一ノ瀬くんのことだろうか?

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