最後の恋
「はい。…あの室長ひとつ伺ってもよろしいでしょうか?」

「ん…何?」


そう聞き返す彼の声はとても懐かしい感覚を呼び起こす。


高校時代のあの彼を思い出させるその声に、私は大人になった今でも時々彼の事をこうして思い出してしまう瞬間があった。


「えっと…その専務の…


そう言いかけたその時、室長のデスクの電話が鳴り始め電話に出た室長が私を見てゴメンねと視線を合わせてきた。


それを見て私も室長に頭を下げ、自分のデスクに戻った。


室長の電話は思った以上に長引いているようだ。


そして、私が電話応対をしている間に忙しい室長は慌ただしく秘書室から出て行った。


名前聞きそびれちゃったけど、室長も忙しいし仕方ない…。


私が聞いていた専務の情報は、大学からアメリカに留学し卒業後はそのまま向こうにある支社で一社員として実績をあげ今回専務として日本に帰ってきたという事。


彼は言わば現会長の孫にあたる御曹司でもあるらしい。
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