最後の恋
彼らの距離が徐々に近づき、専務の顔をハッキリと認識したその瞬間、彼の視線に捕えられた私は息を飲んだーー。


彼がこんなところにいるはずがないのに…。


だけど私の心は、目は…間違いなく彼を一ノ瀬 礼央だと言っている。


きっと今、私の顔は相当驚いた表情をしているはず。


もしかしたら、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているかもしれない。


自分で自分の顔は確認できないけど、彼から見た私はきっとそう見えていると思った。


そして、彼の方はというとーーー


まるで私が此処にいることなんて初めから分かっていたとでもいうような、あの頃と変わらない笑顔を向けていた。


いやあの頃よりも、更に魅力を増し大人の男性になった彼が私の前で立ち止まった。


「松野さん」


最上さんに名前を呼ばれ、返事をしたその声がわずかに震えてしまったのも仕方がないと思う。
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