最後の恋
「…久しぶり、松野さん。」


目の前にいる私の上司であるはずの人はそう言って、部下に見せるにしては少し砕けた雰囲気の柔らかな笑みを浮かべている。


まぁ、私たちは同級生であり懐かしい友には変わりはないけれど…。


会長室まで専務を迎えにいった私は、彼を連れて21階に戻ってきていた。


彼を見た秘書室女子一同の目が爛々と輝いたのは……言うまでもない。


同じように私に向けられたのは、彼の秘書になった私を羨むような視線。


そして皆の前で就任の挨拶を終えた彼と私は、専務取締室で二人向かい合っている。



「お久しぶりです…。まさか、一ノ瀬君が今日から私の上司になる専務だとは思ってもなかったです。」

「うん、そうだろうね。松野さんの俺を見たときの顔…相当驚いた顔してたもんな。」


彼はそう言って、よほど私の顔が面白かったのか我慢しきれなくなったように吹き出した。
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