最後の恋
例えそうだとしても、私と彼が覚えている理由は全く異質なもの。


彼にとっては、きっと面白かった出来事として…


私にとっては、大好きな人と初めて話した恥ずかしいけど大切な思い出。


だけど、それでも彼が覚えてくれていた事は素直に嬉しかった。



でも、今は一ノ瀬君と過去の思い出話に花を咲かせていい時じゃない。


自分の気持ちを切り替え、専務に今日1日のスケジュールを伝えた。


「本日は、あと30分ほどでランチの時間になります。午後からは一緒に社内の各部署の案内を兼ねて回りますのでよろしくお願い致します。では、何か御座いましたら内線で呼び出していただければすぐにお伺い致しますので、これで失礼させて頂きます。」


頭を下げ、彼に背を向け部屋から出ようとした私に背後から呼び止められた。


「松野さん。」


足を止め、彼の方に向き直る。

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