レス・パウダーレス

わたしを乗せてくれる予定の車は、まだ見当たらなかった。

体の中身を抜くように、大きな息を吐く。そうすると、肩のあたりに疲れが一気に押し寄せてくるのを感じた。

月曜日から今この時まで、自分自身をごまかして、気付かないうちに無理をしていたのだろう。そんなことに気づかされる、金曜日。

今日のことを花金、なんて世間一般では言うけれど。今までのわたしにとって、週終わりのこの日はべつに華やいでなんかいない、地味で大人しい一日だった。

たまに友人と飲みに行くこともあったけれど、たいていはすぐ家に帰って、たっぷりお湯を溜めたバスタブにゆっくりと浸かる。

ゆいいつの贅沢は、三種類の入浴剤から気分に合うものを選ぶこと。

でも二か月ほど前から、入浴剤の減りはめっきり遅くなった。わたしの定番が、定番じゃなくなった。

金曜日の夜に、必ずと言っていいほど、予定が入るようになったから。


ーー三口聡さん。

彼と会ったのは、数えて全部で六回だ。


会話をしたのも、六回。名前を呼んだのも、呼ばれたのも、食事をしたのも六回。

身体を繋げたのは、その半分。半分の、三回。

年齢。勤めている会社の名前。半年前までは、わりと長く続いた遠恋の彼女がいたこと。

合コンで出会って、ちゃんと連絡を取り続けて付き合うなんてパターンは、わたしが初めてだということ。

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