レス・パウダーレス
肉料理には赤ワインが定番だけれど、あの人はあえて白を合わせるのが好きだ。
それくらいしか、わたしは三口さんのことを知らない。
もっとも、当人から聞いた言葉だし、総計してもまだ少ない共有時間の中だけで判断したものだから、本当かどうかはわからないけれど。
トートバックを両手で持って、ブラックチェリー色の車を待つ。
ほんの少し黒に混じった赤は、暗い夜には判りづらいから、探すのは黒色。車種はたしかインプレッサ。
幾度か見ているから到着すればわかるはずだけれど、なんせわたしは、車には全然詳しくない方だ。
左右そろったヒール靴が五センチ、わたしを地面から押し上げている。
もったいぶらずに給料をはたいたかいあって、この靴だけは、一日中履いていてもつらくなるようなことがなかった。
靴から目を離して、顔を上げた時だ。
わたしの視線は無意識のうちに、ある一つの光景に吸い寄せられていた。
それは、どこにでもよくある、平凡な。
学生服の男の子と女の子が、ロータリーに隣り合わせた歩道を、歩いてくる様子だった。
付き合っているんだろうな、と思った。
ベッタリとくっついているわけじゃないけれど、そういうのはわかる。
お互いに向ける笑顔がとても優しくて、まぶしかったから。
キラキラしていた。
実際に目に映っている光景と、頭の中にふいに浮かんだ映像は、とても似ていて、でも違った。