溺愛御曹司は仮りそめ婚約者


「保留、ね。前進してるからまあ、いいか。おじいちゃんのことがあるから急ぎたい気持ちはあるんだけど、沙奈の気持ちも大切にしたいからね」

そんなの嘘だ。私の知らないところで、勝手にいろいろやってるくせに。この人、本当に策士だ。

「お預けはきついな。でも、俺の腕の中でもがく沙奈はとてもかわいいから。それをもう少し楽しむことにするよ」

にっこりと微笑まれて、ヒクリと頰が引きつる。こ、怖い……。この人のこの笑顔、本当に怖い。

そんな私の心情を知ってか知らずか、彼が私の頰に手を伸ばしてくる。

「攻めあぐねていたところに、獲物が自ら無防備にその身を差し出してきたんだから。なりふり構わずモノにしないとね。キス魔なんて、嘘だし。俺を男として意識させるのに、手っ取り早いからね。一応、今まで加減してたけど、もう遠慮しない。沙奈が変な意地を張れなくなるくらい、ドロドロに蕩けさせて、甘やかして、惑わせて。俺でいっぱいにしてあげるよ」

口元に笑みを浮かべた妙に色っぽい彼に、唇をなでられる。私を映す漆黒の瞳が、怪しく光った。

「俺がどれだけ沙奈を思ってるか、さっそくキスで教えてあげる」

色気がダダ漏れの笑顔に、ヒッと小さな悲鳴が漏れた。恋心を自覚したばかりのところでいっぱいいっぱいなのに、そんな拷問受けたくない。

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