溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

「も、充分わかったから、いい！」

「遠慮しないで」

「してな……んむっ」

彼の唇の熱を感じながら思う。ああ、もし時が戻るのならあのときの私に言ってやりたい。

彼を好きになる可能性がゼロだなんて、そんなバカな考えを捨てなさいと。

無償でいいと言われたのだから、報酬にキスなんてするんじゃないと。キス魔だなんて、嘘だったんだから。

きっとあの瞬間から、すべては始まっていたんだ。彼の本気の包囲網から、逃げられるわけがなかったんだ。

唇も舌も、ひとつになったのではと錯覚するほど濃厚な、彼の本気のキス。

どうして彼とのキスは、こんなに甘いんだろう。

「なんでだろう、沙奈とのキスはすごく甘い」

それを聞いて、彼も甘いと感じているのかとうれしくなる。好きな人と、同じ感覚を共有しているのって、こんなに幸せを感じるものなんだ。

「遺伝子レベルで求めてる相手だからかな。キスの先に進んだらどうなるのか、想像しただけでどうにかなりそう」

それは、きっと私も同じ。細胞が、この人のことを求めてる。本能のままに、彼のものになってしまえたらーー。