溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「自分を、許す努力をしてみるから……もう少し、もう少しだけ、待ってて……ください」
だけど、やっぱりそれはできなくて、彼の胸に顔を押しつけてそれだけ口にする。
「……うん。待って……るだけは無理だな。全力で協力する」
図々しいお願いに彼はうなずいて、触れるだけの甘いキスをくれた。
窓の外には神秘的な月の道。月の光を受けて、薬指にはまったままの指輪がキラキラと輝く。
ああ、私は……彼から逃げられないんじゃなくて、逃げたくないんだ。捕らわれていたい、この人の腕の中にずっといたい。
差し伸ばされる優しいその手をすぐにでも取りたいのに、素直になれない意固地な私を、この人は待っていてくれるという。
それがとてもうれしくて、愛おしくてたまらなくて、たくましい背中に腕を回す。
「沙奈、好きだ。沙奈……」
優しい声で私の名前を呼ぶ、この人のために変わりたいと、そう強く思った。