溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
唖然として小松さんと主任を見比べる私に、彼はふっと微笑んだ。以前は絶対に見せなかったその笑みに、その場にいた面々が息を飲む。
「ありがとう、小松さん。悪いけど、よろしく。他のみんなも、もう少しだからよろくしくお願いします」
そんなことは気にもせず、試食会の終了を告げた声に場の空気が緩んだ。
なんだかわからないうちに午後の予定が変わり、戸惑う私の元に主任が近づいてくる。
「浅田さん、急に申し訳ないね」
「いえ、いいんですが……」
いったいどこに、と聞こうとする私に彼は甘い笑みを見せて耳に顔を寄せる。
「今日は、お弁当持ってきてないよね」
あなたが朝、いつもにましてしつこかったから時間がなくてね。そんな文句を目に込めてうなずくと、彼はクスリと小さく笑った。
その顔を見て気がついた。あれ、わざとだったな。
「一緒にお昼ご飯、食べよう。そのときに午後の詳細を話すよ。じゃあ、あとで」
小声でささやいて、軽く私の肩に触れてから会議室を出て行く彼の背中から視線を戻してギョッとした。メンバー全員が、私のことをニヤニヤしながら見つめている。
主任が選定したという今回のプロジェクトチームのメンバーは、若手有望株が多く、チームワークがいい。
いいことなんだが、最近、私と主任を見つめるみんなの瞳がちょっとおかしい。