溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「な、なんですか?」
「いや、みんな浅田さんの偉大さに感服してるのよ。あの桐島主任をあそこまで変えるなんて、すごいわ」
「いや、私は別になにも」
小松さんの言葉にブンブンと勢いよく首を横に振る私を、半澤主任が肘で突いてくる。
半澤主任は開発部の主任で、私たちより二歳年上だ。今回のレストラン事業で、サブリーダーの役割をしている。
「謙遜するなよ。まあ、桐島の御曹司の彼女なんて荷が重いのはわかるけどな。浅田さんのおかげで、あいつが変わったのは事実なんだから。激レアな笑顔まで見せちゃって。浅田さんの前、限定だけどな」
ククッと笑うこの人は、なかなか食えない性格をしている。そういえば、半澤主任は桐島主任とわりと仲がよかった。
「だから、それは誤解で……」
「照れるな、照れるな。俺、こないだふざけて沙奈ちゃんて呼んだらめちゃくちゃおっかない顔で睨まれちゃった。あいつ、なかなか心が狭いよな。いやぁ、面白くて仕方ないわ」
照れているわけではなく、事実を言っているだけなのに全然話を聞いてくれない。
まだ付き合っているわけではないのに、私と主任が付き合っているというのが周知の事実になるのはまずいと思う。
だから、必死に否定しているのだけれども、なかなかうまくいかないのはあの人のせいだ。