溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

ただ、彼女の言葉にどうしようもなく不安なってしまったのだ。私なんかが、彼の隣にいていいのだろうか? 彼に、ふさわしい人間なのだろうか?

なかなか卑屈だと、自分でも呆れてしまう。だけど、父に言われた言葉は、なかなか私の中から消えてはくれない。

「本当に、ごめん。沙奈、なにがあった? 全部、話して?」

労わるように、主任が私の頰をなでる。優しい目で顔を覗き込んでくる彼を直視できなくて、つい目を逸らしてしまう。

私は、弱虫の臆病者だ。ずっと、いい子でいることで自分を守ってきた。そうすることで、自分の中に流れる母の血を否定したかった。

ガーデンで、私を睨みつけていた森田さん。あんなふうに人にぶつかれる彼女の強さが、少しうらやましい。

彼女のしたことは間違っていたかもしれないけれど、私に向けた言葉はあながち間違いでもない。

だから私は、主任になにも教えたくない。

それに、彼女はずっと好きだった相手に、社員の前で手ひどく糾弾されたのだ。もう充分、報いは受けたと思う。

「……なにも、ないよ」

これ以上、主任に言いつけるような真似はしたくない。そう思った私の答えに、彼の身体がピクリと強張った。

黙ったままの彼に視線を戻して、今度は私の身体がビクリと震える。

彼の身体からどす黒いオーラが発せられているように見えるのは、きっと気のせいではない。


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