溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
まあ、間違いなく私より恋愛レベルは上だろう。ひとりでもんもんと悩んでいるよりは、相談してみたほうがいいかもしれない。
そう思った私は、カフェオレをひと口飲んでから話し出した。
「いや、なんか……私なんかがあの人の隣にいていいのかなって」
「え? 今さら? 結婚式までしといて?」
「いや、あれは……気づいたときには決まっていたというか……。それで、結婚式のときにある人に、あなたは彼にふさわしくないって言われちゃって。覚悟がないだろうって。たしかに、そうなんです。だって、ちょっと言われたぐらいでこんなにグラグラしちゃうんですもん。そんな私に、あんな優秀な人を支えられるのかな、とか。彼の人生をめちゃくちゃにしてしまったらどうしよう……とか。とにかく怖いんです。怖くて仕方ない」
私を見る、蔑むような父の瞳。あの瞳を主任に向けられたら、きっと立ち直れない。結局、私は自分が傷つくことが怖いんだ。
ひとりでいれば誰かを傷つけることも、傷つくこともない。
だから、恋はしない。結婚もしないって誓ったのに……私は彼を好きになってしまった。
ぎゅっと、カフェオレの入ったカップを握る私に、半澤主任は驚いたように目を見開いた。
「へえ。桐島が本気なのはわかってたけど、逃げられまいとずいぶんと必死なんだな。まあ、わかる。ちょっと桐島に同情するわ。浅田さん、案外バカなんだね」
え、今、バカって言った?
邪気のない笑顔で告げられた辛辣な言葉に、唖然としてしまう。