溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「ちゃんと桐島と話しなよ。最近、全然会ってないんだろ?」
そうなのだ。結婚式のあとから、主任に全然会っていない。ついにレストランが、一週間後にオープンを迎えるからだ。
メニューの開発が終わり、ひと段落した私たちとは違い、プロジェクト全体のリーダーである主任は多忙を極めている。
ずっと外に出ていて社内でも姿を見ないし、私も今は自分の家に帰っているから、そうなると社外で会うこともない。
結婚式のあと、私はすっかり彼から逃げ腰になってしまった。自分の気持ちを見つめ直すいい機会にもなるだろうと、しばらく自分の家に帰ろうと決め、それを主任に伝えた。
ダメだと言われると身構えていたのだが、なにかを察したのか、意外にもあっさりとOKが出た。
ただし、引越しの準備を進めておくことを条件に。それに私は渋々うなずいて、かなりのノロノロペースで部屋の片付けを初めている。
「大事なのは今なんだからさ。もっとシンプルに考えなよ。桐島は浅田さんのことが好きで、浅田さんも桐島が好き。それでいいじゃん。先のことを不安に思ってちゃ、なんにもできないんだからさ。俺たちの仕事だってそうだろう? 形になるかわからないものを必死になって考えて、試行錯誤しながら形にしていく。結婚だって、そうじゃない? ふたりで一緒にぶつかって、歩み寄って、夫婦の形を作っていくんだと思うよ。同じ方向さえ向いてれば、大丈夫だよ」
たしかにそうだ。企画の仕事は、形にならずに消えていくもののほうが多い。そうして生まれたアイデアを、たくさんの人が関わって形にしていく。