溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
『安全でおいしいものを食卓に届けたい』それを目指して、みんなが同じ方向を目指して進んでいく。
説得力のある言葉にその顔を見ると、いつものニヤニヤ笑いを引っ込めた真面目な顔をした半澤主任が私を見て安心させるようにうなずいてくれた。
「半澤主任、すごくいいこと言いますね。もっとふざけた人だと思ってましたけど、今日で見る目が変わりました」
「うわ、ひど。また名言をひとつ残してしまったな。メモとってもらえばよかった」
「大丈夫です。心のメモ帳にしっかり書きとめましたから。心配していただいてたんですよね。ありがとうございます。桐島主任の仕事が落ち着いたら、ちゃんと話してみます」
「いいえ、とんでもない。仕事が落ち着いてから、ね。あの様子じゃ、そんなに待てなそうだけど。じゃ、桐島のことよろしくな」
ニコリと微笑んだ半澤主任が、私に背を向けて社内に戻っていく。私も残りのカフェオレを飲み干して、ぐっと背を伸ばした。
ちゃんと話そう。主任だけじゃなくて、じいちゃんとも。今まで怖くて聞けなかった、お父さんとお母さんのことをちゃんと聞こう。
今度の休みは、ちょうどレストランのオープンとかぶるから主任も忙しいだろう。ひとりで実家に帰って、じいちゃんとゆっくり話をしよう。
「さ、仕事をしよう」
まだなにも解決してはいない。だけど、なんとなく見通しが明るくなった気がして、スッキリとした気分で私は仕事に戻った。