溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
ギリギリ、九秒のところでドアを開けると、眉間にシワを寄せた不機嫌マックスな主任が立っていた。
スーツではなく、黒いジャケットにグレイのインナー、それにチノパンを合わせた休日スタイル。文句なくかっこいいが、顔がとても恐ろしい。
そんな恐ろしい顔をしていても、三週間ぶりに顔を見れてうれしいと思うのは、やっぱり私が彼のことを好きだからだろうか。
「おはよう。上がらせてもらうよ」
「あ、はい」
有無を言わせぬ口調に反射的にうなずいて、部屋の中に彼を招き入れる。部屋の中を見回している彼に、そういえば私の部屋にくるのは初めてだなと思う。
こんなことなら、もう少し綺麗に片付けておけばよかったなと思う私に、彼は深いため息をついた。
「……三週間もあったのに。全然、引越しの準備できてないね。これは、お仕置きだな」
「へ?」
呆れられるほど汚かったかなと不安になって下を向いていた私は、聞こえてきた物騒な言葉に顔をあげた。
「……っ、んんっ!」
彼と目が合った瞬間、抱えるように抱きしめられて唇が塞がれる。身体が浮いている感覚が怖くて、主任の首にしがみついた。
そうするとさらにきつく抱きしめられて、唇を塞がれているのもあって息苦しさを覚える。
「んっ……苦し……」
苦しさから唇を離そうとすると、後頭部を押さえられてしまう。深くなった嵐のようなキスに、ついていけなくて呼吸が乱れる。
唇も舌も、彼の体温と溶け合ってひとつになったような感覚にぶるりと背筋が震えた。