溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
どのくらいそうしていたのか、気がついたら肩で息をしながら彼の胸にクタリと頭を預けていた。いつ唇が離れたのかも、よくわからない。
久しぶりに感じる彼のぬくもりと香りに、頭がクラクラする。
「……三週間分には全然足りないけど、時間がない。残念だけど、お仕置きもあとで。沙奈、出かける準備して。化粧はしなくていいから」
「え? ど、どこに行くの?」
「おじいちゃんのところ。ほら、着替えて」
ポンポンと背中を叩かれて、レストランのオープンは明日なのに、仕事は大丈夫なんだろうかと心配になる。
とりあえず、寝起きのままでいるのもなんだから着替えをしようとしたのだが……。
「ちょ、待って。身体に力が入らな……」
主任のキスに骨抜きになってしまった私の身体は、思い通りに動いてくれない。主任にもたれかかったままもがく私に、彼はニコリと笑った。
「ああ、ごめんね。三週間も放置されたから我慢できなくて。これでもまだ抑えてるんだけどね」
あ、これ嫌味だ。久しぶりだとその嫌味さえ愛おしく思えるから不思議だ。だが、そんな気持ちは、彼の不穏な手の動きで吹き飛んでしまった。
「え、ぎゃあっ! やだ、なにして……」
「責任とって、着替えを手伝ってあげようと思って」
「だ、大丈夫! 自分でやります!」
服をまくってくる彼の手を慌てて押さえて、まだうまく力の入らない足を叱咤してヨタヨタしながら洗面所に逃げ込む。