溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
顔を洗って、寝室に移動して、クローゼットから服を出す。部屋着から適当に選んだシャツワンピに着替えながら、気になっていることを主任に聞いてみた。
「あの、仕事は……大丈夫なんですか?」
「今日、休みとれるように必死で仕事を片付けたから平気。あとのことは、半澤さんに任せてある。さすがに明日は、行かないといけないけど。いい加減、俺も限界だったし。人が一生懸命、働いてるのに誰かさんは家出するし、メールの一本もくれないし」
あ、あれ……? 許可はもらってたはずなんですが。それにしても、今日はなんだか主任がかわいい。
なんか、ふてくされてる?
「ご、ごめんなさい」
寝室から顔を出して謝ると、意外と近くに立っていた主任に腕を掴まれて、ニヤリと笑った顔が間近に迫る。
「悪いと思ってるなら、それなりの『誠意』を見せてもらわないと。ま、それもあとで。とりあえず、行こう。ちょっとギリギリだな」
「へ? ギリギリ?」
首を傾げて主任を見るが、私の質問に答える気はないらしい。腕を引かれて、慌ただしく家を出る。
車の中でも、ほとんど会話はなかった。あっという間に高速を降り、田植えが終わったばかりであろう田園風景を眺める。
チラチラと時間を気にしている主任になにか約束があるのかと疑問に思うが、聞けないでいるうちに実家に着いてしまった。
「もう着いてるみたいだな。行くよ」
うちの庭ではなくて、団地の中にある共有の駐車スペースに車を止めた主任が、私の手を握って歩き出す。
「え、誰か来てるんですか?」
「うん。だから、急ごう」
いや、意味がわからないんですけど。それに、私、化粧はしなくていいって言われたからスッピンなんですが。