溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「たしかに顔は奈緒子さん似だが、中身は和雄にそっくりだなぁ。頑固で意地っ張りなところなんて、そっくりだ。あいつは本当に不器用だな。なにも伝えないで逝っちまって。あとで説教だ。和雄は、ちゃんと沙奈の幸せを願ってたよ。不器用だから、面と向かっては言えなかったんだな。よーく手伝いをしてくれる沙奈を、自慢の娘だって褒めてたよ。あいつとばあちゃんによろしく頼むって託されたから、じいちゃんは沙奈が幸せになるのを見届けなきゃなんね」
ずっと聞きたかった言葉に、ポロポロと目から涙がこぼれる。思わずじいちゃんに抱きつくと、小さな頃と同じようにポンポンと背中をなだめるように背中を叩いてくれた。
「黙ってちゃ、気持ちは伝んねえど。和雄はそこを間違ったなぁ。意地っ張りもほどほどにして、素直にならねぇと。東吾くんに幸せになってほしいなら、そばにいなきゃダメだっぺ。東吾くんも、沙奈にそばにいてほしいって望んでる。ふたりとも同じ気持ちなんだから、迷うことねぇ」
「うぅっ、本当にいいのかな。私なんかで。東吾のこと支える自信ないよ」
「……俺が、沙奈じゃなきゃダメなんだよ。契約を利用して俺なしで生きられなくしようと思ったのに。そうなったのは、俺のほうだ」
私の声に答えたのは、じいちゃんではなかった。振り返ると、黒い紋付き袴を着た主任が立っている。
「そばにいるだけで、いい。それだけで、俺は幸せだから。沙奈が隣にいてくれることが、俺の幸せなんだ」
柔らかく微笑んだ主任が、答えを待つように私の顔をじっと見つめている。動けないでいる私の背中を、じいちゃんがぽんっと叩いた。
「ほれ、沙奈。ちゃんと自分の素直な気持ちを伝えないと。東吾くんとなら、大丈夫だ。じいちゃん、嘘ついたことないだろ?」
じいちゃんの優しい笑顔が、涙で滲む。私も、彼のそばにいたい。この先の人生を、彼と歩んでいきたい。
彼のことが、好きだから。好きで好きで、たまらないから。
「……うっ、うぅっ、私……好き。東吾の、ことが、好き。だから、お嫁さんに、して、ください。そばに、いさせてください」
生まれて初めてした愛の告白は、ボロボロに泣きながらというなんとも不恰好なものだった。