溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「力抜いて。これじゃ、唇の感触が確かめられない」
「ふ、ぅ」
チュウッと唇を吸われて、声が漏れた。何度も何度も唇を吸われて、段々と力が抜けていく。
そうすると今度は、感触を確かめるようなキスをされる。
あの桐島主任とキスをしているなんて、信じられない。これって、夢じゃないよね?
だけど、それを唇に感じる濡れた弾力のある感触が現実だと教えてくれる。
キスが好きって、本当なのかも。お試しとは思えないくらい、キスが長い。それに、上手な気がする。
「ん、やっぱりすごく柔らかくて俺好み」
どれくらいそうしていたのか、唇を離してくれた桐島主任の呟きに目を開く。
ペロリと自分の唇を舐めている妙に色っぽい姿が目に入って、かあっと顔が熱くなる。でも、それ以上に……唇が熱くてたまらない。
「お、お気に召していただいたなら……よかったです」
なんて言っていいかわからずに、熱を持った唇を撫でながらいつもとなんら変わらない表情の桐島主任を見つめる。
「契約成立、だね。俺は、浅田さんの偽の恋人役をする。浅田さんは、俺がしたいときにしたいだけキスをさせてくれる。ギブアンドテイク、対等な取引だよね」
したいときに、したいだけ? あれ、なにかがおかしい気がする。
それは対等なんだろうか、と疑問に思ってみても、私に拒否権はない。きっとキスをした時点で、契約は成立していたんだ。