溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
そんな私の告白に、主任はなんともいえない複雑な顔で小さくため息をつく。
「なんだろう。泣きそうなくらい、うれしいんだけどさ。抱きつく相手、間違ってない?」
そう言われて、じいちゃんに抱きついたままだったことに気がつく。たしかに、祖父にしがみついたままで愛の告白なんて我ながらひどすぎる。
「なんとも、決まんねぇなぁ。ほら、東吾くんのとこさ行け。沙奈、幸せになれよ」
「……うん」
じいちゃんに背中を押されて、主任の胸の中に飛び込む。彼は、しっかりと私を抱きとめてくれた。
「東吾、ありがとう。今日のことも、今までのことも……ありがとう」
「最初に言っただろ? 沙奈の大切なものは、俺も大切にしたいって。沙奈のこと、世界で一番大事にするよ。だから、俺と結婚しよう」
彼からの、四度目のプロポーズ。一度目は彼の家で、二度目は旅行先で、三度目はレストランでの結婚式。
そして、今日ーー。
「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
やっとうなずけた私にうれしそうに微笑んで、主任が私のことを抱きしめる。
「やっと、捕まえた。三ヶ月か……。長かった」
「いやぁ、ずいぶん時間かかったなぁ。じいちゃん、待ちくたびれたわ」
「思いの外、沙奈が強情なもので。本当なら、結婚式のときに口説き落とせるはずだったんですよ。ちょっと、予想外の妨害が入りまして。お待たせして、すみません」
「いやいや。東吾くんには苦労かけたなぁ。本当にうちの孫、強情だけど、心根の優しい子なんだ。よろしく頼むな。東吾くんは、釣った魚によーく餌をやるとええよ」
「大丈夫です。俺は、餌をやりまくるタイプみたいですから。心配なのは、沙奈のほうですけどね」
「……え、あの……なんの話してるの?」
「なんのって、やっと偽物じゃなくて、本物になったって話だっぺよ。こんないい男に口説かれてんのに。贅沢もんだなぁ、沙奈は」
「は? に、偽物って、まさか……」
なんとなく、嫌な予感がする。恐る恐る主任の顔を見上げると、彼はニコリといつもの笑顔を浮かべた。