溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「ごめんね、沙奈。契約のこと、おじいちゃんに話してあったんだ」
「は!? い、いつ!?」
素っ頓狂な声をあげる私に、主任はサラリと衝撃的事実を口にする。
「初めて、ここに来たとき。沙奈がご飯作ってくれてるあいだにね」
「いやぁ、我が孫ながらこったんねぇなと呆れたわ。でも、東吾くんは、沙奈のこと好きだっていうし。物好きだなとは思ったが、こんないい男逃しちゃいかんと“キューピット”してたわけよ。いやぁ、沙奈がデレデレしてっから、本物になるのが先かと思ったわ」
そ、それって、最初からじゃない。唖然とする私に、じいちゃんはなんでもないことのようにカラカラと笑う。
「おじいちゃん、それは笑えないです。ひ孫の顔を見るまでがんばるって約束したじゃないですか」
「東吾くん、鬼だなぁ。こればかりは授かりもんだけど、お互いがんばっぺ」
なに、それ。全部、私のひとり相撲だったってこと?
なんか、なんか……すごく恥ずかしい。
いたたまれない気持ちで綿帽子で顔を隠した私の頰を、彼の指がなでた。
「ごめんね、沙奈。でも、もう偽物じゃないんだから、いいよね?」
優しい笑みを浮かべた主任が綿帽子の中に隠れた私を覗き込む。良くない。全然良くない……のに、そんな顔で見つめられたらうなずくしかない。