溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「本物になった証に……キスして、沙奈。最後の契約をしよう。死がふたりを分かつときまで続く契約を」
結婚式のときに聞いた言葉を口にする主任が、顔を近づけてくる。
あのときは、緊張しているばかりでその意味なんて全然考えられなかった。
あんな神聖な場面で、中途半端な気持ちで「誓います」なんて口にしてしまった自分が恥ずかしい。
今度はちゃんと、神様に誓おう。病めるときも健やかなるときも、彼の隣で生涯を過ごすことをーー。
「東吾、好き」
罪滅ぼしではないけれど、ありったけの気持ちを込めて彼の唇にキスをする。
「俺も。愛してるよ、沙奈。……契約成立、だね」
初めて彼の腕の中でした愛の告白に、うれしそうに笑った主任が、私の唇にキスをする。
そのキスは、今まで彼としたどんなキスよりも甘く、幸福な気持ちを私にくれた。
「これにて、一件落着! だっぺよ」
背後から聞こえる、時代劇のヒーローのようなじいちゃんの声に、ふたりで顔を見合わせてぷっと吹き出す。
もう一度、自然に唇を重ね合わせる私たちの頰を、爽やかな風がなでていった。