溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
それでも、顔を見ながら無言でため息をつかれるよりは、怒りをぶつけてもらったほうがずっといい。
まあ、その怒りに油をドバドバと注いでしまったのは私なんですけどね。
「ほんと、ありえない。もう少しってとこで家出されるは、そのまま放置されるわ。顔も見れず声も聞けなくて、寂しくて仕方なかったのは俺だけですか?」
「い、いえ。私も寂しかったです」
「絶対、嘘。一生懸命、働いてきて誰もいない冷たいベッドで寝てた俺の気持ちがわかる? なかなか寝付けなくて、寝たと思ったら沙奈の夢を見て。起きたら隣に誰もいないときのあの気持ち、わかります? やっと捕まえたと思ったら、初夜にも逃げられるし」
「うぅ……だって。あ、でも結婚して初めての夜なんだから、今日が初夜なんじゃない?」
「その初夜に、別々に寝ようって言ったのは誰ですか?」
「あぅ、ごめんなさい」
そうなのだ。私のその不用意な発言が、東吾の逆鱗に触れてしまったのだ。だけど、それに関しては私にも言い分がある。
「俺がどれだけ我慢してたか、わかる? ずっと好きだった子が無防備に隣に寝てるのに手を出せないとか。拷問以外の何者でもないから。何度、なし崩しに抱いてしまおうと思ったか。俺の自制心の強さを褒めてほしいよ」
そんなに我慢してくれてたんだ。唇を尖らせる東吾が、なんだかかわいくて顔がニヤけてしまう。それを見た東吾はムッとした顔で椅子から立ち上がった。