溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「半澤主任が、東吾が私のことを捕まえるのに必死だって言ってたの。それ、本当?」
ふいに思い出してそう聞いてみると、彼は弾かれたように私から身体を離した。
その顔が真っ赤に染まっていくのを見て、目を見開く。こんな顔、初めて見た。
「……っ、あの人は、余計なことを。そうだよ、必死だったよ。ずっと沙奈に話しかけたいのに、話しかけられないくらいヘタレだし。あのとき、巡ってきたチャンスを逃したくなくて、必死だった。沙奈も、ちょろいかと思えば頑固で意地っ張りでなかなか落ちないし。だから今、沙奈と結婚できてすごく浮かれてる。なのに、やっと捕まえたと思ったら逃げるし」
「ご、ごめん」
「あー……もう。俺、すごいかっこ悪い。ちょっと今、顔見ないで」
顔を隠すように、また東吾が私の上に倒れ込んでくる。男の人にこんなことを思うのは失礼なのかもしれない。でも、なんだか本当にかわいい。
東吾の身体の重みが愛おしくて、自然と背中に手を回す。
「やばい、もう。すごいドキドキしてるし、緊張してる」
「うそ、東吾が?」
思わず左胸に手を置くと、たしかにドクドクと速い鼓動を感じる。東吾も同じなんだと思うと、うれしくなってすぐ近くにある東吾の顔に頰をすり寄せた。