溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
コクリとうなずいた私に、桐島主任はニヤリと笑った。見たこともない意地悪なその笑みに、身体がビクッと震える。
あれ、なんだろう……これ。私、どこかでなにかを間違えたかもしれない。
「じゃあ、早速。契約成立のキスを……浅田さんからして」
桐島主任の言葉に、目を見開く。それも一瞬で、すぐに覚悟は決まった。
この契約が必要なのは、私なんだ。私なんぞのキスでじいちゃんを安心させられるなら、安いものだ。
桐島主任のキメの細かいうらやましいくらいに綺麗な肌に手を伸ばして、頰に触れる。
「契約、成立です」
そう囁いて、契約の証のキスをする。情けないことに、桐島主任の唇に触れた私の唇は震えていた。
「今から君は俺の恋人だね。よろしく、浅田さん」
にっこりと艶やかに笑った桐島主任を見て、なぜだか悪魔に魂を売ったような、そんな気分になった。