溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「やっ!」
恥ずかしくて身をよじる私に、彼はひどく楽しげに口角をあげた。ひっと息を飲む私を見る目は、獲物を追いつめるハンターの目だ。
「そういえば、お仕置きもまだだったね。それも含めて、今度はお仕置きモードでじっくりと……」
ああ、無駄に早起きしてしまった自分が恨めしい。それに一度『受け入れる』なんて言ってしまったからには、今さら拒否なんて許されるわけがない。
「あの、なにぶん初心者なので……お手柔らかにお願いします」
さっき手に入れたばかりの武器を駆使して上目遣いで見上げると、頬を染めた彼がすっと目を逸らす。
うん。やっぱりこれ、すごく有効だ。
「ずるいな、本当。やっぱり勝てる気がしない。こういうのを、惚れた弱みっていうんだろうな」
「東吾、好き」
ダメ押しとばかりにささやくと、東吾の表情が変わった。愛おしげに私を見つめる彼に、胸が甘くときめく。
「うん。俺も……好きなんて言葉じゃ表せないくらい好き。沙奈、キスして」
私しか知らない、蕩けるような笑顔を浮かべる東吾の唇に、自分の唇を重ねる。
契約ではないそのキスはやっぱり甘くて、胸がいっぱいになる。
唇の柔らかさも、ぬくもりも、身体の重みも、なにもかもが愛おしい。
彼だけがくれる特別なキスが、私のすべてを満たしてくれる。
「私も、愛してるよ」
あふれる気持ちを口にすると、東吾の顔が赤くなった。ふむ、ふいうちの愛の言葉にも弱い、と。
「東吾、愛してる」
新たな武器をもう一度囁いて、私は微笑みながらキスをした。
「お仕置きはするけどね」
耳元でささやかれて、ゾクリとする。キスは甘いけど、どうやらそこは甘くなかったみたいだ。